こんにちは。31歳の目黒区議会議員、かいでん和弘です。
昨年の12月、目黒区民センターの建て替えに向けた事業者公募が、資金不足により“中断”することとなった旨、Xでお知らせしていましたが、
本日の委員会で改めて、
“現在の公募条件での事業実施を中止”
することが報告されました。これ、今後数十年の区政を占う「区政のターニングポイント」と言ってもいいくらい重大な出来事ですので、詳細をお伝えします。
建築費が足りない!
まず、区民センターの建て替えを立ち止まるきっかけになったのは、「建築費の高騰に伴う資金不足」でした。どのくらい足りないかというと、

区が建て替えに用意していた金額が398億円余。それに対して、建築費の高騰を見込んで再度、必要額を見積もったところ、492億円余に達するとわかりました。その差、94億円余が足りません。
とはいえ、正直言って94億円という金額は、別に今の目黒区にとって出せない額ではありません。目黒区の2024年度当初予算額(1年間に使うお金)は1,300億円、2023年度末時点の財政調整基金(区の貯金)は395億円ありますので、区も「別に区民センターの増額分94億円が出せないから中断するわけではありません」と明言しています。
ではなぜ中止という判断をしたのか。それは、建築費や人件費の高騰が続き、学校の建て替えなど、区が予定しているほかの支出も今後増えていくことが予想されるなかで、この機に改めて区の長期的な財政状況を見積もってみたら、かなり、かなーり厳しいということが明らかになったからです。
具体的に区の財政状況を見てみましょう。
目黒区の財政、どうなる?
まず前提として、“現在の”目黒区の財政状況はそこまで厳しいわけではありません。というか、結構余裕があります。例えば、区民税の収入は、順調に右肩上がりで伸びていて、特にここ数年は毎年、過去最高の税収額を更新しているくらいです。

好調な税収のおかげもあって、区の貯金(基金)は増え、

借金(区債)は減っています。

問題なのは、“将来の”財政です。
厳しすぎる将来の財政
今回の区民センターの建て替え中止を機に、目黒区が今後の区の財政状況をシミュレーションしてみた結果が下の画像。ひとつずつ解説します。

まずは結論から。「2030年以降、毎年100億円の歳出(=支出)削減が必要になる」ほど、財政が厳しいとの結果になりました。単年度で100億円必要、ではなく毎年100億円です!!区の予算のおよそ13分の1を毎年節約する、というイメージですね。

そして、「節約をしないとどうなるか」を示すグラフが4つ並んでいます。
メインの貯金箱が-3,000億円に

もっとも自由な使い道ができる貯金箱である「財政調整基金」は、2066年(令和48年)時点でマイナス3,000億円に膨らみます(水色の線)。
実際には基金(貯金)にマイナスはありませんので、マイナス3,000億円というのはわかりやすく表現するための架空の数字です。が、これだけお金が不足します。その分、毎年の支出を減らしていくか、そうでなければ借金である「特別区債」に上積みしていくことになります。
グラフの赤い点線は毎年100億円を節約した世界線の基金残高。これでも、残高は100億円近辺にまで落ち込みますから、災害時や不況時、あるいはコロナ禍のような感染症蔓延時を考えると、決して万全の蓄えではありません。
2つの重要な貯金箱がゼロに

施設の建て替え工事で使うために貯めていた2つの基金が、いずれも早期に底をつきます。ただこれはもともと織り込み済み。昨年2月に区が公表した「目黒区中期経営指針」(下のグラフ)のなかでも、2つの基金は減っていく想定で、むしろ令和13年度時点の想定を比べると、減っていく速度は遅くなったようにも見受けられます。(それだけ近年の財政状況が良く、想定以上に貯められていた、ということです。)

借金は最大1,000億円に

一方、借金額である「特別区債残高」は、最大で1,000億円まで膨らみ、その後施設の建て替えがピークアウトするにつれて減少する、という曲線を描きます。
昨年2月時点の推計では、令和13年度時点の区債額はおよそ「350億円」と見込まれていましたが、今回改めて見直したところ、令和13年度時点でおよそ「500億円」と、わずか1年で1.4倍に増大したということですね。
こうした推計の結果、毎年100億円の削減が必要だ、という結論になったわけですが……
この推計、実はかなり甘ーく作られています。

まずは収入について。上の図の、黄色の実線のように区の歳入額を見積もっている(令和12年度以降はわからないので、平均値をとって同じ額に設定)わけですが、ふるさと納税による流出額は毎年右肩上がりに伸びていますし、103万円の壁の議論(引き上げられれば区税収は減ります)などもされているなか、区の歳入(収入)は今以上に落ち込む恐れもあります。
反対に支出面で言えば、このシミュレーションには学校と区民センター以外の施設更新経費は含まれていません。つまり例えば、1966年築で今年築59年を迎える区役所の建て替えも今後必要となるのに、このシミュレーションでは「無い」ことになっている、と。
そうなると当然、100億円の削減で足りる訳もなく……

区民センターは今後どうする?
話を区民センターに戻します。ストップしたはいいものの今後どうするかというと、区の見解は、
これまでの取組を踏まえながらも、工事費等が高騰する時勢を捉えた持続可能な施設サービスのあり方、機能融合や複合化・多機能化、縮充の推進による区民サービスの向上、区有資産の有効活用の更なる推進等、あらためて区有施設見直しのリーディングプロジェクトとして多角的な視点をもって進める必要があることから、令和7~8年度に実施する目黒区区有施設見直し方針及び計画の改定検討作業と並行して進めることとし、改定後の見直し方針等において事業の一定の方向性を整理したうえで、令和9年度以降の具体化を目指す方向で調整する。
つまり現在はストップすることが決まったのみで、そこからどうするかは決まっていません。令和9年(2027年)ごろ、方針を出すということですね。

ただ少なくとも、現在の築50年以上の区民センターは、老朽化が進み、耐震性もないのも事実。今ある建物を仮に大規模修繕して使い続けたとしても、うまくいってあと20年くらい。「建て替えない」という選択肢は先送りの弥縫策にすぎません。
一方で、建て替えるとしても、現在の公募条件を少しイジってどうこうなるレベルでもありません。改めて再度、区民センターに入れるべき機能を考え、真に必要でない機能はそぎ落としていく必要があります。「○○って、あえて区民センターに必要?ここにもここにもあるからいらないよね?」、というような議論です。
ただ、今回区が強調していたのは、「ゼロベース」ではない、ということ。2018年から庁内での検討を始め、ここに至るまで、住民の皆さんとの対話など様々なプロセスを積み重ねてきましたので、そこでの議論をゼロにしてまた振り出しから議論を始めるわけではありません。

なお、一緒に建て替える予定だった下目黒小学校については、このままだと改築時期がズルズル後ろ倒しになってしまいます。そこで、区民センターの建て替えとそもそも一緒のプロジェクトとするべきなのかどうかも含めて、今後取り扱いを整理していくとのことです。(下目黒小学校だけ、先に建て替えることもありうる、ということですね。)
分かっていたはずでは?
今回は、区民センター建て替えに、区が想像していた以上の費用高騰があったため、いったん立ち止まることができました(12月)。そこから改めて今後40年間にわたる長期的な財政推計を行い、さらに危機感を増した結果、現在の公募条件での中止を判断した(1月)わけですが、私としては「もっと前の段階で機能を減らすなどの対策ができたのではないか」という思いを禁じえません。
そもそも、今後の財政状況が厳しくなるのは、(一部の方を除き)誰の目にも明らかでした。例えば私は昨年9月、今後の区財政について結構厳しく指摘をしています。(7分30秒の動画をぜひご覧いただきたいところですが、一部内容を抜粋。)
さまざまな要因が相まって、令和5年度の目黒区財政は非常に安定的なものとなりました。しかしこれは、あくまで嵐の前のひと時の凪にすぎません。
区の財政状況悪化は、ほぼ100%、確定している未来です。だからこそ、「今この瞬間に余裕があるから」と基金を大盤振る舞いして使い込むようなことは、決して行うべきではありません(かいでん注;そう主張する議員さんもいるもので……)。これは今さえ良ければ、将来はどうなっても構わないと言っているようなもので、為政者としてこれ以上ない無責任な判断です。
今のうちから目黒区が行わなければならないのは、ワイズスペンディングの実践や事業のスクラップです。
どの事業を始めるか、始めないか、あるいはすでに行っている事業を止めるか、止めないかを判断する際に、やはり目黒区にはもう少し、その事業が区の目指す大きな方向性に合致しているか否か、という軸を意識して頂きたく思います。
議会で言われたとて、区民に言われたとて、ひとたび区の将来像にそぐわない、デジタル推進に逆行するような事業、働き方改革に逆行するような事業を容認したら最後、その事業は時代錯誤の、しかし容易にスクラップできない、後の区政の足かせになってしまいます。
そしてそれは逆もまた然りです。区や東京都、この国の将来像を考えたときに、目指していくべき方向性に合致している取り組みについては、それらの導入がいかに難しかろうと、内外にいかなるハレーションが予期されようと、今のうちから果敢に挑戦し、成功も失敗も含めて区としてノウハウを積んでいただきたい。
財政に余裕がある今の時期は別に、時代に合わない事業であっても温存させておいて、波風を立てずに過ごすこともできます。けれどもいつかは終わるこの幸運な時間を、ぜひそのような停滞のためでなく、時代を先取りする取り組みにトライ&エラー大歓迎で挑戦する、そのような実りある期間にしていただきたく思います。
また、それよりも前の2021年には、横浜市の行っている「長期財政推計」を例に出しながら、数十年間にわたる長期間での財政推計の必要性をただ一人訴えたこともありました。

当初私は、横浜市のように「数十年間の予測を」と主張していました。しかし「財政予想は結構大変」「あまりに先過ぎると予見できない」という区側の見解もあり、2021年11月に、以下のような15年間の財政推計がはじめて公開されました。

この資料が出る前までは、本当に直近数年分の財政予想しか出してこなかった目黒区にとって、15年間の予測を行っただけでも相当な前進だったんです。さらにこの試算でもすでに、基金(貯金)額が区債(借金)額を下回るという厳しい結果は現れていたので、一定、指摘した意義はあったかなとは思っていました。
しかし、2021年の時点で40年分のより長い推計を作れていれば、もう少し早く今回のような判断ができたのではないか、少なくとも今回のような計画の大詰めの段階での公募中止ということにはならなかったのではないか、との思いはぬぐえません。15年よりも長期の財政推計にこだわりきれず、区役所を説得しきれなかった力不足を、今は反省しています。
これからが正念場
以上のように、これから数十年間、区役所も、私たち区議会議員も、正念場を迎えます。毎年100億の歳出削減。この単位ではもはや、個々の事業の見直しだけではどうにもなりません。
このなかでは、今までなかなか手を付けることができなかった議論が必要になるでしょう。例えば、○○センターと呼ばれる建物(住区センター、いこいの家、高齢者センターなど)の必要の有無や、もしかすると「22ある小学校も、今の数を維持するのは難しいのではないか」といった議論も起こりえます。
○○センター的な施設は、必ずコアなユーザーからの大反対運動が巻き起こるでしょうし、小学校統合の話などは、口に出すのもはばかられるほどのハレーションが予期されます。けれども、それももはや避けて通れる情勢ではありません。
政治家の価値は、「最大多数の最大幸福を実現するために、痛みの伴う話、顔の見える相手から反対されるような話をどれだけ正面切って訴えられるか」にあると思います。これまでのボーナスタイムから一転、苦しい時が続きそうですが、私自身、30年後も現役世代の身として、これからも長期的な目線で望ましい解を訴え続けます。
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