こんにちは。28歳の目黒区議、かいでん和弘です。
今回のテーマは防災無線
ひとくちに防災無線といっても実は上図のように色々な種類があるのですが、今回取り上げるのは丸囲みした「固定系防災行政無線」について、要は皆さんに一番なじみ深い、夕方5時に「めぐろ・みんなの歌」を流しているこの装置です。
この防災無線は、公園や学校、その他区の施設など、区内65か所に設置されていて、地図で見ると区内全域を網羅するように配置されているのがよく分かります。
一方、その保守管理に年間どのくらいのお金がかかっているのか、来年度の予算書をご覧ください。
2万8,950円と思いました?
いえいえ、単位は(千円)ですので、年間2,895万円です。
ここには職員が使うトランシーバーの保守費用(240万円)など別の費用も含まれているので留意が必要ですが、それでも少なからぬ金額をかけて維持しています。
さらに、国から全市区町村に対して
「防災無線をアナログ→デジタルに切り替えてください!アナログは2022年11月末で使えなくなりますよ!」
とのお達しが下ったのを受け、目黒区では2018年から2020年までの3年かけて、防災無線のデジタル化を行いました。この経費として、3億2,800万円余のお金が投入されています。これは全額が区の負担。国の方針に従って行っているのに財源(国の補助金)がないのはちょっとヒドい……。
なお、この3億2,800万円は、区の借金(区債)として計上されていて、今後数十年間にわたって少しずつ返済していくことになります(つまり現在も鋭意返済中!世代間の負担の公平を期すためですね)。
どういうときに活躍するのか?
ではこれだけのお金がかかっている防災無線、どのような場面で活躍するのでしょうか。使われるシーンを羅列してみます。
風水害時の避難情報
ミサイル発射時(Jアラート)
…あまり空想上の話でもなくなってきているのが怖いところです。
光化学スモッグ注意報
地震
…発災前と発災後の2度使われることになります。地震が起きた後に「地震が発生しました」って言われても「いや、知ってるわ!」って感じですけど、落ち着いて火の元の確認を促しているのは案外効果ありそうです。
その他各種お知らせ
…2020年には、(区内に事務所のある)ホリプロ所属の著名人の皆様から、コロナ対策・外出自粛の呼びかけを流していただきました。
なお、津波の恐れのある自治体であれば、これらに加えて津波注意報、警報発令時に大活躍することになりますが、目黒区では津波の心配はほぼありません。
実戦投入!結果は?
さて、この防災無線の真価が問われた機会が、記憶に新しい2019年10月の台風19号。目黒区では区政史上初めて避難勧告が発令、防災無線が暴風雨のなかで実戦投入されたのでした。
(この台風の被害状況は過去の記事「区役所へ要望しました(台風19号)」)
結果は……課題噴出。
ただでさえ雨風の音がすごい中、台風に備えて窓とシャッターを閉め切った家も多かったので、「何を言っているか分からない!」という指摘が区民の方から殺到しました。
また目黒区では、無線を聞き逃した方のために、専用番号に電話すれば放送内容を確認できるサービス(防災行政無線音声自動応答サービス)を実施していたのですが、そこへも入電が殺到、回線がパンクする事態になりました。
私自身、区民の方から多くの改善要望を頂きましたので、区に対して改善要望書を提出したりしましたが、この教訓を受けて、目黒区では2020年、目黒川流域の6か所、7つのスピーカーをより聞き取りやすいハイスペックなものに取り換え、また、防災行政無線音声自動応答サービスについても回線を増強し、数百万回線のダイヤルに耐えられるようになったのでした。
防災無線、再考
改めて防災無線って何のためにあるのでしょうか。風水害時等の大事な時には聞きとれないし、その情報もスマートフォンを持っている方であれば今はほぼすべてプッシュ型通知で得ることができます。「あってよかった、防災無線」っていうシーンは、それこそスマホが手元にない時などかなり限定されるでしょう。
(スマホをお持ちの方はぜひ目黒区の無料防災アプリをダウンロードください。避難情報の通知機能など、いざというときに役に立ちます)
とすると、いまや防災無線は「主にスマホを持たない高齢者等の方のためのもの」ということになりますが、雨風が吹き荒れるなか防災無線の音声を聞き取るというのは若者でさえ困難なのですから、高齢者にとってはなおさらです。
一方、外に目を向けてみると、一部自治体ではシステムの保守管理・修理にお金がかかることなどの理由により、防災無線を廃止しているところも出てきているようです。
目黒区では、「2020年に防災無線のデジタル化工事を終えたばかりでまだ工事費を返済している途中」ということもありますし、災害時の情報伝達手段は多ければ多いほど良いということもあるので、私としても防災無線の“廃止”を主張するものではありません。
けれども、技術の進歩や家の気密性向上などにより、防災無線に以前ほどの価値はなくなってきたのも事実。ならばその分を別のサービスで補っていかねばなりません。スマホを持っていない方やネットを使いなれていない方、あるいは日本語が不自由な外国の方など、情報が届きにくい方々へ、防災無線に替わって情報を届ける手段が必要です。
そうなってくると、今目黒区が整備している「音声自動応答サービス」ではちょっと微妙だというのが私の見解。ネットでサービスの番号(0180-993-333)を検索できない方は、あらかじめ手元に番号を控えていなければいけませんし、「聞き逃したら自分で電話してください」って、そうやって自分から情報収集するのが難しい方にこそ、いちはやく情報をとどけねばならないのです。
ちなみに余談になりますが、この「音声自動応答サービス」の年間経費は70万円。2021年10月~2022年2月までの5か月間で130件の利用があったそうです(大きな風水害がなかった時期(Jアラートのテスト放送が2回)なのに意外と使われている!?)。
ただしうち113件、全体の87%は携帯電話からの利用だったとのことで、やはり「いの一番に災害情報を届けないといけない高齢者世代にどれだけ使って頂けているか」ということに関しては微妙なところです。
そこで先日、私から提案したのが「避難情報の電話配信サービス」です。こんなもの↓↓
このサービスは高齢者等のスマホを持っていない等の方に、事前に固定電話番号を登録していただくと、災害時にその番号へ自動で電話がかかり、役所職員が入力した避難情報等が合成音声で配信されるというものです。ポイントは、区民の方が自ら電話をかけなくてもいいということ。平時に登録さえしておけば、あとは待っていれば自動で情報を得られるのです。
都内でも三鷹市や武蔵村山市等ですでに導入されており、聴覚障がい者のためにFAXの送信もできるようになっているところもあります。また外国語音声を流せる機能もあり、行政からの情報が届きにくい(それはつまり一番行政が情報をとどけたい)相手に対して、ピンポイントで防災無線の情報を伝えることのできる仕組みとなっています。
この提案に対しては区からも、
情報発信の多層化は重要な課題。特に、スマートフォンやパソコンをお持ちでない区民にどうやって、迅速・適切に避難情報を届けるかというのは、永遠の課題。最新の技術を含め、様々な手法を検討して、効果のあるものについて積極的に取り入れていく。
と概ね前向きな反応があったところです。
災害時に一番情報が届きにくい高齢者等の方は、一番初めに避難をしなければいけない方でもあります。そうした方々の自発的な行動を期待するのではなく、プッシュ型で必要な情報を届けられるよう、区の早期の対策を期待します。
《区政の最新情報/よしなしごとをつぶやく》
いつもありがとうございます。
費用対効果や代替え案のご提案、説得力もありよく分かりました。
取材やご提案の根拠などご努力に頭が下がります。
出来ればデジタル化の前に議会で論議がなされたらよかったですけれど。
今後とも宜しくお願いします。
コメント、ありがとうございます!
そうですね、デジタル化の前にとも思うのですが、当時私は現職でなかったこともありますし、もし現職だったとしても、近隣区はどこでも国の指示に従って行っていた作業ですので、目黒区だけが廃止するという判断を下すのは一筋縄ではなかっただろうと思います。
大変参考になりました。
デジタル化といっても電波がデジタルなだけで
音声で伝える肝心の部分は昭和時代のアナログのままですね。
防災無線は完全な官製産業なので
放置すると進化に背を向けたガラパゴス設備として延命します。
かいでんさんのような若い方の提案に期待しています