こんにちは。30歳の目黒区議会議員、かいでん和弘です。
先日、自宅のポストにこのようなビラが入っていました。
ここには大きな文字で、“23区トップクラス 住み続けたい調査 YES!95.6%”と書かれていて、世論調査の結果を現職区長のアピールポイントの一つと打ち出しているようです。
実際に2月の議会でも、区長は次のような発言をしていました。(全文は、前回のブログ「目黒区政のリーダー像を巡る議論」に載せています。)
令和5年度に行いました第47回目黒区世論調査では、目黒区に住み続けたいと答えた方は、95.6%となっており、これは、23区中2番目に高い数字で、目黒区の過去の世論調査と比較しても2番目に高い数字となっております。また、私が区長に就任した平成16年度以降は常に93%を超えております。この結果からも、総合行政としてみた場合、私の区政のかじ取りは正しいものであったと自負しております。
今回はこの発言を吟味していくのですが、まずはソースを見てみましょう。昨年行われた世論調査で、「あなたは、目黒区に今後も住みたいと思いますか。」と聞いたところ、1,178人の目黒区民の方から以下のような回答がありました。
これの「ずっと住んでいたい」と「当分の間は住んでいたい」という回答を合計したら95.6%になるという事なんですね。確かに無茶苦茶高い数字です。
私も区政に携わっている一人として、区民の定住意向が高いのは喜ぶべきことですが、それを区の政治への評価だとしてPRに用いる区長の手法については、「はい、そうですか」と聞き入れる訳にいきません。区長に反論していきましょう。
政治が悪ければ引っ越すのか?
まず率直な疑問を書きます。
「人々の引っ越しの判断に、政治はほとんど影響を与えないのでは?」
皆さんは「区の政治が嫌だから」などの理由で引っ越しを検討したり、「その街から出ていきたい」と思ったりしますか?
もちろん、「多くの待機児童が発生している」など、政治によって生活に重大な影響が及ぶ状況ならば、子育て中のご家庭は引っ越そうと思うかもしれません。けれども多くの場合、引っ越すかどうかは、家賃や仕事場への通いやすさなど、もっと個人的な事情で決めるものであって、正直、物件を決めるまでは「その物件が何区なのか」さえあまり意識しないのではないでしょうか。
実際、この目黒区世論調査上でも、人々が引っ越しに当たって政治的な要素を考慮していない状況が分かります。例えば、「目黒区に住んでいる理由」を聞いたところ、結果は次のようなものでした。
また逆に、引っ越したいと回答した方が「目黒区から引っ越したい理由」に挙げたのは以下の点です。
さらに、「今後の住環境で重視すること」を聞いてみると、
どの結果を見ても、上位に来ているのは政治とは関係のない個人的な事情・希望であり、多くの人は「住む場所を決める際、政治の良し悪しをあまり気にしていない」ということが見て取れます。定住意向の高さを区政への評価に結びつける青木区長の主張は、論理が飛躍しているのではないでしょうか。
(蛇足ながら……日本と海外、どちらに住みたいかと聞かれれば、おそらく大半の日本人は日本国内に住み続けたいと言うのではないかと思いますが、ではその人たちがみんな日本の政治に満足しているのかと言えば、まさかそんな訳は無いですよね。国と地方とでは事情が異なりますが、同様に無理筋な主張をしているように感じます。)
23区比較の意味のなさ
ここからはさらに、角度を変えて考えてみます。もし仮に、青木区長の言う「定住意向=区政への評価」だという論理を認めたとしましょう。たとえそうだとしても、私は「定住意向が23区で2番目に高い」などと比較することには意味がないと考えています。
というのも、23区では世論調査が行われた年度も、質問文も、選択肢もバラバラなのです。同一の基準で行われた調査でないならば、比較のしようがないじゃないですか。なかでも特に問題なのは選択肢です。
表の通り、定住意向の2トップは渋谷区と目黒区なのですが、この2区を含め、23区で4区だけが、定住意向を聞く設問に「わからない」という選択肢を設けていません。
上は目黒区の調査票で、選択肢がこれしか無ければ、基本的には住み続けたいか引っ越したいか、どちらか近い方にマルをつけるしかないですよね(無回答の方も0.3%いますが)。
一方、2つ上の画像の通り、「わからない」という選択肢を設けている19区では、数%~十数%の方が「わからない」と答えています。当然、選択肢が多ければ多いほど回答はバラけますから、各選択肢の回答率は低く出ます。こう考えると、「目黒区の定住意向は23区で2番目」ということが、果たして真実なのか、それとも調査の仕方によるものか、断言できないと思っています。
区長就任以来最低の数字
もう一つ、「定住意向」については、青木区長の解釈とは真逆に、青木区長の手腕を批判する材料にもなり得ます。
冒頭で確認した通り、定住意向というのは「目黒区にずっと住んでいたい」という回答と、「当分の間は住んでいたい」という回答の合計でした。
ただそのうち「ずっと住んでいたい」という最も良い回答の割合は、比較ができる21区中、10番目の数字で、ごく平均的な数字に過ぎません。
また、目黒区の中だけで比較してみても、令和5年度の49.1%という数字は、昭和54年以来2番目に低いものでした(青木区長は平成16年に区長に初当選されていますので、着任以来ほぼ一貫して「ずっと住んでいたい」という回答は下がり続けているとも言えます)。
一番の評価指標は選挙結果
私は、この世論調査を使って、区長の手腕を評価することも、貶めることも、する気はありません。ただ、「様々な解釈ができる世論調査結果を基に区政運営の評価を行うべきではない」ということが言いたいだけです。どうぞ皆さまにおかれましても、明日からの目黒区長選挙では、世論調査結果の良さを喧伝するキャッチコピーではなくて、各候補の政策でご判断頂きたいと思います。
そして思うのですが、結局、区長による政治の良し悪しを反映する一番の指標って、選挙結果なんですよね。区長は5期続けて当選しているわけですから、並み居る候補と相対的に比べれば多くの支持を受けてきたと言えるでしょう。ただ前回の選挙結果でを見てみて
となっていることからすれば、投票用紙に名前を書くほど区長を支持している区民は13.2%しかいないと言えるでしょう。
最後に伺います。皆さんは、青木区長の政治手腕を評価していますか?
この質問に95%の方が同意したとしたら、陳謝の上、当記事は削除することにします。
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