こんにちは。27歳の目黒区議、かいでん和弘です。
何やら物騒なタイトルになっていますが、今回のテーマは、地震の後、電気が復旧する時に発生する「通電火災」を防ぐための区の取り組みについて。現在区で行っている対策には疑問に思える点が多くて、「本当にそれで効果あるの?」と区に問いかけた、その模様を2回シリーズでお伝えします。
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恐ろしい「通電火災」
通電火災とは、大規模な地震などに伴う停電が復旧して、通電が再開される際に発生する火災のことをいいます。図で説明しますと、普通、地震に伴う火事と聞くと、こういうイメージかもしれません。
一方、「通電火災」はこう。
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つまり、地震直後は火災が発生しなかった地域で、数時間から数日後に電気が復旧した際に、通電状態となった電気機器や地震によって傷んだ配線から出火するというものです。地震発生とともに出火するのではなく、避難し無人となった室内から時間差で出火するために、発見、初期消火が遅れ、散乱した室内の状況と相まって、あっという間に火災が拡大してしまうのです。
あまり聞きなじみが無いかもしれませんが、この「通電火災」、決して甘く見てはいけません。1995年の阪神・淡路大震災では、神戸市内で原因の特定できた建物火災55件中、33件(6割)がこの通電火災によるものだったということが知られています。
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通電火災を防ぐために必要なのは、「避難する前にブレーカーを落とす」こと、そして、「ブレーカーをONにする前に、倒れたり電源が付いたままになっている電化製品などを元通りにすること」の2つだけ。しかし、停電による暗闇と余震の恐怖の中、避難する前に冷静にブレーカーを落とす、というのは、頭で理解していても難しいのではないでしょうか。
万一、ブレーカーをそのままに避難してしまうと、電気が復旧したタイミングで出火、避難所にいる間に無人の自宅が全焼、なんていう恐ろしいことにもなりかねないのです。
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目黒区の高リスク地域
この「通電火災」は停電が発生したらどこでも起こりうるものですが、目黒区ではとくに、木造住宅が密集しているエリア(木密地域)を、「火災が発生したら延焼するリスクの高い地域」として指定しています。この地域で通電火災が発生したら、1件だけの問題ではなく燃え広がるリスクが高い、ということですね。
このエリアには約2,000棟弱の木造住宅があり、市街地の燃えにくさを表す「不燃領域率」という数値を見てみると、
表のとおり徐々に改善しているもののいまだ50~60%台。「その地域の焼失率がほぼゼロとなる」とされる70%の水準には届いていません。
そして、東京都が5年に1度行っている「地震に関する地域危険度測定調査」でも、火災の危険性が高い地域として指摘されています(目黒区の右下の方)。
(赤いほどリスクの大きい地域。目黒区もそうですが、おとなり品川区がヤバい…上のリンクから、都内全域の危険度を見ることができますのでぜひご活用ください。)
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目黒区は何をしている?
このリスクの高い地域での火災を防ごうと目黒区が行っているのが、「感震ブレーカー設置助成制度」です。
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この制度を簡単に言うと、
・区内の高リスク地域に家があり、
・その建物が木造であり、
・前年度の税金を滞納していない場合に、
「感震ブレーカー」(後述)の費用と、取り付けにかかる工事費用を最大で5万から8万円助成します、という制度です。(詳しい基準はほかにもあるのですが、区のHPをご覧頂きたく、ここでは省略します。)
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便利!「感震ブレーカー」
説明が前後しましたが、「感震ブレーカー」とは、揺れを自動で感知すると、自動的にブレーカーを落としてくれる装置です。これをつけていれば、停電後、知らないうちに電気が通っているということがなくて、避難所から帰宅した住人自身が家の中に危険がないことを点検・確認したうえで電気を通すことができますので、通電火災のリスクを物理的にゼロにできるという優れものです。
この「感震ブレーカー」にもいくつか種類があって、いろいろなタイプの物が販売されているのですが、目黒区の「感震ブレーカー設置助成制度」ではそのうち次の2種類が助成の対象となっています。
〇 分電盤タイプ
分電盤そのものに機能を持たせるタイプで、最も高性能ですが、高価で、取り付けるために工事も必要になります(工事費も込みで数万円~)。
〇 高性能簡易タイプ
おもりが落下する力やばねの作用の力でスイッチを落とす簡易タイプと呼ばれる感震ブレーカーのうち、電気を遮断するタイミングを震動から数分後に遅らせることで明るい中での安全な避難を助ける機能の付いたもの。こちらはだいたい1万円前後と安価で、工事も必要ありません。
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一見いい制度!でも実際は…
この制度の致命的な欠陥、それは「全然利用されていない」ということです。
んー、きれいな右肩下がり…
ここまで件数が少ない理由については、「単なる周知不足」とか、あるいは「令和元年度は台風19号の対応など色々あったので、担当している防災課の手が回らなかったんだな」とか、そういう次元の話ではもはやなくて、もう制度としてどうなんだ、と、まさに制度のあり方そのものからこれは見直さないといけないのではないかな、と感じるのです。
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問題点はどこ?
私がこの制度に思う問題点は2つあります。
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① 申請がないと始まらない
1点目は、「利用者が申請をしてからでないと始まらない」という、住民の側から積極的な行動を起こしてもらえるかどうかに頼ってしまっている点です(しかも手続きも煩雑ですし)。
このサービスの性格が、もし仮に住民の方にとって、「これであなたの暮らしがより快適になりますよ♪」というようなプラスアルファ的な性格を持った制度なのだったなら、今のような”区民の方からの申請待ち”という態度でも良いのだと思うんです。でも、この「感震ブレーカーの普及」というものは、ただ単にある個人の家や財産や命を守る便利なサービスというだけではなくて、街の延焼を防ぐ、まさに地域を守るために必要な取り組みですよね。
よくこの感震ブレーカーの設置をためらっている方から、「自分がせっかく設置しても、隣の家の人がつけなければ結局そこから出火して燃え広がるし、意味がないからやらないんです」ということを聴きます。これは本当にその通りで、木造住宅が密集する木密地域においては、たとえ自分の家で高性能の感震ブレーカーを設置していたとしても、隣の家が設置していないために通電火災が起こってしまったら最後、自分の家も火災の危険にさらされてしまうわけです。
「通電火災」対策は、地域を守る上で絶対的に必要な取り組みなハズ。でもそれを、役所から「申請してくださいね」と声をかけるだけというのは、区民の方に対する動機づけとして、弱いのではないかと思うんですね。そんなやり方では、「通電火災の怖さは分かるけど、申請してまでやるのは面倒だな」とか、「古い木造の家でブレーカーだけ新しくしてもな。もっと直したいところはあるからな。」とか、あるいは「自分は大丈夫だろう」なんて、住民の方がそう思うのも当然じゃないですか。
もちろん区としても、対象地域にチラシを全戸配布したり、講演会で制度の周知をしたりという広報は行ってきているので、この持久戦を続けていてもじわりじわりと広がっていくのかもしれませんが、災害の方は待ってくれないので、一刻を争う防災の施策としてどうなんだろうなと思うところです。
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② いつまでも終わらない
問題点の2点目は、スピード感の部分です。この事業、はっきり言って、そもそもの想定からしていつまでたっても終わらないんです。
先にも書きましたが、まず大前提として「自分がせっかく設置しても隣の家の人がつけなければ意味がない」ということはまさに究極的には真実なわけで、であるならばなによりもまず対象エリアに感震ブレーカーを一刻も早く普及し終わることを目指すべきだと思います。
ところが、目黒区がこの事業につける年間予算は250万円。例えば1件当たり5万円補助するとなると、年間に補助できる件数はわずか50件ということになります。一方、火災の高リスクエリアの木造住宅は全部でおよそ2,000件。つまり、この事業をこれから続けていったとすると、危険なエリアをカバーできるまでには2000件÷50件で、40年かかるわけです。(これは今年度から補助額の低いプランも登場し、もう少し柔軟に対応できるようになっていますが。)
ましてや昨年度の実績は4件ですから、あくまでそんなことは無いと承知のうえで言うと、1年に4件進むペースで実施していたら、それこそ500年かかるわけです(タイトルを「あと40年?」としようか、「あと500年?」としようか迷いました笑)。
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少なくとも首都直下型地震が今後30年のうちに70%の確率で来ると言われている中にあって、とりあえず補助を出すだけは出している、けれどもその実、本当に効果を発揮するまでには数十年かかります、というのでは、ちょっと現状、喫緊で求められていることと乖離しすぎているように感じます。
ん~、この後の提案の部分が一番書きたかった部分なのですが、すでに長すぎて読者の皆さんを置いてきぼりにしている雰囲気をひしひしと感じますので、今回はここまで。次のブログで、私の提案と、それに対する区の回答を書いていきます。
後編はこちら
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