活動報告(ブログ)

総務(広報/人事/財政)

「人は城、人は石垣、人は堀」、人材育成のあり方(神戸市視察報告 3)

 

前々回から続く神戸市視察報告の最終回です。

過去の記事はこちらから。

① 「実験都市 神戸」

② 完敗…SNSへの前向き姿勢

 

今回は、ICT・データを活用したまちづくりを進める神戸市の“人材育成”についてです。

 

 

職員を育てたい!

 

ICTに強い民間企業の知恵を借りて市政課題解決に成果を上げていた神戸市ですが、民間に頼ってばかりだと、市職員のデータ活用能力は伸びていきません。「市で持っているいろいろな統計を、どういう風に組み合わせれば課題解決に使えるか、その“シナリオ”を自分たちで考えられる人材を育てないといけない!」という課題意識から始めたのが「データアカデミー」という取り組みです。

 

 

データ利活用人材育成「データアカデミー」

講師:Yahoo!JAPAN

神戸市データアカデミー(神戸市HP)

 

 

「データアカデミー」とは、職員がデータ活用の一連の流れを習得するための新しい研修方法で、神戸市では全国の自治体に先駆けて2016年からスタートしました。(きっかけは市長がデータ活用の先進地・サンフランシスコ市に視察に行ったことだったそうです。良い取り組みを行っている場所には姉妹都市でなくてもトップ自ら訪問する姿勢、目黒区も学ぶべきところは多いですね。)

 

さて、どのようにデータ活用の方法を学ぶかというと、職員数人でグループになり、次のようなワークショップを行うそうです。

 

①まずは課題を設定し、それをデータで検証して客観的に認識します。

②適したデータがない場合は実証実験でデータをつくり、現状を“見える化”します。

③課題解決策の仮説を立てるとともに、どうすれば効果が測れるかという⽅法を検討し、実際に試算します。(シナリオの組み立て)

 

 

データ分析素人の私からすると、いきなり統計データに飛びついて、数字を眺めながら、「何か問題点はないかな~」と考えたくなるところです。つい最近も、図書館の利用者数のデータを見ながら、「利用者が少なくなってるなー、どうすればいいんだろうー」なんて、思っていました。でもそれはあくまで《データ→課題を発見》というアプローチ。(その時のことについては図書館どうする問題4の記事をご参照ください。)

 

それに対して「データアカデミー」は、《課題→データ活用→解決》という全く逆の順序。確かにそのほうが、現場の課題がまずあって、そこにデータを組み合わせていく、ということが身につきそうです。(自戒)

 

神戸市ではこのワークショップの機会に、それぞれの部局が困っていることを持ち寄って、みんなでデータを使いながら解決策を話し合っているそうです。これまでのテーマがこちら。

 

 

部局を跨いでアイデア出し合っていく姿、「実験都市 神戸」の名にふさわしいチャレンジ精神に感じ入ります。

 

 

市民も育てたい!

 

神戸市が育てようとしているのは、市の職員だけではありません。神戸市民や市内の企業にも「データを活用して課題を解決するという発想ができるようになってもらおう」ということで「データアカデミー」の市民・企業向け企画など、様々な取り組みを行っています。そのなかでも興味深く感じたのは、神戸市がバルセロナ市とともに行っている“データ利活用教育”です。

 

 

スペイン第二の都市・バルセロナ市は、現在、観光客が多すぎて市民生活が脅かされる“オーバーツーリズム”という問題に悩まされています。ひどい渋滞の発生や、観光客が家の前にゴミを捨てて行ったり、挙句おしっこまでされてしまうなど、いろいろな部分で市民に悪影響が出ているとのこと。

 

そこでバルセロナ市は、人の流れ、車の流れから風向きや二酸化炭素濃度など、街で起こっているありとあらゆる現象についてデータを集めて、データベースにまとめたうえで、そのデータから改善策を考えていく取り組みに力を入れることにしました。その結果、スマートシティの分野では先進都市と言われているそうです。

 

神戸市はこのバルセロナ市と姉妹都市の関係にあり、年に1回バルセロナ市で行われる「スマートシティエキスポ」に神戸市の職員が必ず参加していたそうですが、それだけにとどまらず数年前から “データ利活用人材教育”のコラボ企画も実施しています。

 

神戸市から学生や若手IT企業人材などをバルセロナ市に派遣し、地域課題解決のためのオープンデータ活用をテーマとする国際ワークショップや交流視察ツアーを実施しているとのこと(すごい)。こういう姉妹都市間で高め合える関係性、とてもいいなと思います。

「神戸・バルセロナ連携国際ワークショップ」(神戸市HP)

 

 

私たちの目黒区は、北京市東城区、ソウル市中浪区、宮城県角田市、宮城県気仙沼市、石川県金沢市の5都市と友好都市協定を結んでいます。しかし、その関わり方は、災害時の職員派遣のほかには、お祭りでブースを出し合ったり、中学生がバスケットボールで戦ったりというもので、あくまで「親善を深めましょう」ということに留まります。

 

神戸市とバルセロナ市の関係性を見ていると、目黒区も先方の友好都市との共通の課題を、タッグを組んで研究していくような、そんな生産性のある関係にまで高められたらすごくおもしろいだろうな、と感じます。

 

 

そういえば、サッカー元スペイン代表で、長くバルセロナに所属したイニエスタ選手がヴィッセル神戸に移籍したのは、単なる偶然でしょうか…

 

神戸市の人材登用

 

さらに、専門家を市の職員として取り込んでしまったほうが早いのではということで、人材登用も他の自治体から頭一つ抜けています。

 

❶ データ分析の専門家として、2019年から全国自治体で初めてデータサイエンティストを配置しました。

神戸市データサイエンティストの就任(神戸市HP)

 

民間コンサル会社出身の30歳の方がデータサイエンティストとして、数あるデータの中からどのデータを使えば課題解決につなげられるかなど、専門的な分析にあたっているのだそうです。

 

❷ (ICTの分野ではありませんが、)こちらも全国自治体で初めて「チーフ・エバンジェリスト」を登用しました。

「チーフ・エバンジェリスト」を丸の内北口オフィスで採用!(神戸市HP)

 

「エバンジェリスト」とは聞き慣れない言葉かと思いますが、日本語に直すと「伝道師」という意味になります。商品の認知度を高める「広報」、商品を売る「営業」とは違い、商品がユーザーにもたらす未来や世界観を伝えるのが仕事です。

神戸市では、721名の応募の中から選ばれた民間出身の2名の方が、企業、住民などあらゆる方面に神戸市の魅力を伝播すべく活動されています。

 

 

実は目黒区でもICT化推進のために、(こっそり)外部人材を登用しています。その名も“情報政策監”。(神戸市のように公募してたくさんの人の中から選ばれたというわけではなく、前々から区で相談していた専門家の方にそのまま就いていただいたようです。)

 

名前から“次世代らしさ”が感じられないということは置いておいて(港区でも同じ名前の職があるので業界用語?)、この方は、情報処理やICTに関することについて、区役所職員にアドバイスを行う非常勤の専門家の方で、週何日か役所に来て、職員の相談に対応しているそうです(私はお会いしたことがありません)。

 

ただ、この情報政策監についての情報は、区のHP上には一切見当たらないのがなんとも。その点、神戸市では氏名や経歴もHP上で公表されていますので、技術云々の前にICTの利用を推進しようという姿勢や熱意から遅れをとっているように感じました。

 

おわりに

 

3回にわたったブログの結びとして、私が視察後に議会事務局に提出したレポートのまとめの部分を抜粋して掲載させていただきます。

 

 

―――(以下抜粋)―――

 神戸市では、データやICTを活用することで様々な事業で成果を上げており、個々の事業はそれぞれ、より深く掘り下げたいような興味深い事例ばかりであった。しかし、今回の視察から本当に学ぶべきなのは、そういった個々の成果よりもむしろ、市の姿勢としての「探求心の強さ」であったように思う。

 「目黒区はなぜ、神戸市ほど熱心にデータ・ICTを活用しないのか」という問いに対しては、都市としての規模や予算の違いもあるので、やっていないことを責められない部分もあると思う。しかし、「目黒区はなぜ、神戸市ほど熱心に産学官連携に取り組まないのか」といえば、これは結局、目黒区の“怠慢”に他ならない。

目黒区でもやがて人口が減少していくははっきりしているのである。防災、高齢化など、公務員の視点だけでは解決が困難な課題が山積しているのも事実なのである。そんな状況下でも目黒区で、産・学との連携が鈍いことについては、大いに反省しなくてはならないのではないか。

 「探求心の強さ」で言えば、神戸市ではスペイン・バルセロナ市との姉妹都市協定の縁をきっかけに、バルセロナ市で毎年行われているスマートシティエキスポに市職員が参加したり、両都市の高校生同士でデータ活用をテーマとした交流も行っている。このように友好都市協定を、単なる友好関係の醸成を越え、共通の課題を解決する機会にしようという熱量は、残念ながら目黒区では感じられない要素である。

 

神戸市のような政令市でさえこれほどの危機感を持っているのである。目黒区も今の東京の(危機がそれほど迫っていない)状況に安穏としているのではなく、先を見据えて必死に、あるべき都市像や生き残るすべを考えていかないといけない、そう強く思う視察であった。

―――――――――

 

長くなりましたが、以上が神戸市の視察についての報告です。やっぱり先進的な自治体に行って、事業の風景を見たり直接担当している職員の方からお話を聞く機会を頂くと、「目黒区もこうならないとな」という気持ちで体じゅうに危機感とやる気がみなぎります。これは本やパソコンで調べるだけではおそらく味わえない感覚でしょう。

 

“議員の視察”というと、「旅館に泊まって観光して、ちょっと説明を聞いて、宴会して……」みたいなお手盛り旅行のイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、10年以上前にはそういうようなこともあった、と誰かから聞きました。

 

でも、今は違うんですということ、少しだけでもお伝えできたでしょうか。現地で行われている素晴らしい取り組みから、何か持ち帰れる部分がないか貪欲に盗み取ろうという貴重な機会になっています。

 

ただし本番は帰ってから。「見て感動した」だけで終わらせないよう、目黒区の政策にどう落とし込めるかじっくりと考えていきます。

今回はここまでです。ありがとうございました。

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